Intrapreneur Marketing Note

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海外勤務なのに、英語力が追いつかない人はどうすればよいのか

その日は突然来た

わずか2年弱ではあるけども、サンフランシスコのオフィスで働いていた。
それまでは、英語が大嫌いで、大学でも第一外国語をスペイン語を選択していた位の酷さだった。中学受験以来、ほとんど英語の勉強はしていなかった。だから、30才過ぎても極力使わずに避けてきたのに、その日は突然来た。

「では、あさって10時に、サンフランシスコのオフィスで待ち合わせで」

その当時、ソーシャルゲームを開発する会社に勤務していて、会社は北米市場に打って出ようとしていた。そのために、すでに米国のスタジオを買収し子会社化していた。けれども、なかなか成果の上がってこない子会社に痺れを切らした本社は、マーケティングの梃入れをすることになった。そうして、国内のマーケティング経験があった自分が、現地子会社オフィスに赴くことが決まった。

しかも、現地へ赴くことが決まった会議で、「あさって10時にサンフランシスコに集合」と言い渡された。国内出張で大阪に行くくらいの感覚で言われた。だから、全く心の準備もできず、語学の補修(補習)もできず、海外出張用のスーツケースすら準備できなかった。緊張しながら「ビジネス出張 入国 受け答え」とかググッていたのが思い出せる。

そして、米国への出張にはパスポートだけじゃなくて、ビザが無ければESTAが必要だという当たり前を理解したのもこのときだった。

jp.usembassy.gov

すべてが不安

当然のことだが、英語から距離を置きすぎたので、ただでさえ入国審査も不安なのに、ビジネス目的での滞在という初めての経験が更に不安を掻き立てられた。現地について指定のホテルに移動するのも不安。指定されたオフィスまで移動することも不安。現地スタッフとのミーティングは更に不安。ありとあらゆるものが不安で、全く楽しみに出来なかった。

現地のオフィスに何とか着いて、向こうのスタッフと一緒に会議を始めたのだけど、何も言ってることが分からずただただ、虚しかった。一緒に同行してる海外経験の豊富なスタッフのおかげで、通訳してもらってやっと理解できるけど、議論が白熱すれば、通訳は間に合わないので自分だけ放置されてしまうこともあった。

このとき、初めて自分の語学力を心の奥底から後悔した。情けないなと。
とにかく意見を伝えられない。反論も出来ない、同意も出来ない。だから指示が出せない。結果が残せない。

そして、一番へこんだのは、現地のスタッフから言われた一言だ。

「I removed your account.」

マーケティングの現地戦略を立てるために、過去の重要なローデータへのアクセスが必要だった。だから、言葉が通じず、ろくにコミュニケーションが全然取れない日本から来たスタッフであっても、渋々、現地の担当者はアクセス権を与えてくれた。

しかし、この日本人(私)は、このデータを次にどう扱おうとしているかを説明するのに十分な言語力が無かった。だから、彼らには不安だったと思う。例えば、扱い方次第では、現地スタッフの処遇が悪くなることも考えられるわけである。だから、極力、意思決定に重要なデータへ私が接触しにくくしたのかなあと思う。

そして、タイミングを見て何かの理由をつけてシャットダウンされた。
ただ、とにかく相手から、拒絶されたことは良く分かった。

当座は、できない語学よりも、できることに集中

とはいえ、いきなり語学が出来るようになるはずもない。そこで、語学の習得をしつつも、現地のスタッフとの協働ができる状態を目指すことにした。現地でも通用しそうな自分の武器を見直すと、マーケティングの専門知識と経験しかやはりないことに改めて
気が付かされた。なので、現地のスタッフが最も必要としているものを提供することにした。

当時は、アプリに対するプロモーションの体系だったロジックが定まっていなかった。
だから担当者が思い思いに「このアプリはイケテルと思うから大目にプロモーションする、このアプリはそんなにグラフィックの仕上がりが良くないからプロモーションはしない」的に感覚で判断をしているので、データに基づいた判断が少なかった。だから損をすることの方が多いので、次第にマーケティングコストの投下を渋るようになっていった。

そこで、日々のパフォーマンスデータを過去分も含めて集計できる期間全てを取得し直し、向こう3ヶ月~1年の収益予想モデルを組み立てることにした。これにより、ローンチ後、数週間の時点で、将来の売上予測(LTV予測)を可能にし、プロモーションの投下限界を示すことができるのだ。こうすれば、黒字運営が可能である。

改革よりも、小さな成果を共有し一緒に変化を起こすことが大事

予測モデルを作るのには、ローデータがどうしても必要だった。けれども、データアクセス権を取り上げられていたので、日本語ができる現地スタッフを見つけ出して、仲良くなって勝手に頼み込み、正規ルート以外の方法でローデータを取得したりした。

こうして出来上がった予測モデルの効果は絶大だった。データ上、パフォーマンスが確認できれば、ローンチ直後に一気にプロモーションを投下できるので、ダウンロードも獲得できるし、それで売上も一気に積みあがった。iOSでもAndroidでもGrossing Rankingの上位に喰いこんだ。

結果が出てきたことで、現地のスタッフとの関係性は敵対や疑心暗鬼から、信頼に変化していった。そこからは、提案も通りやすくなり、私のつたない英語であっても、相手からの譲歩(忍耐)のおかげで何とか考えを汲み取ってもらえるようになってきた。やっと、手ごたえが出てきた。

アプリ開発チームからも、マーケ担当者の主観で決まっていたプロモーションルールが、データドリブンに改められたので、一定のパフォーマンスを出せば、大きく育ててもらえることが周知できた。だから、彼らのモチベーションアップにも繋がったと思う。

ホワイトボードと大き目のキャンパスノートにグラフを書き起こす

この経験から、専門知識があれば、国籍を問わず、尊敬を集めることができることも理解できた。そして、抽象的な考えや思いを披露するのに比べて、定量的な数字を元にしたプレゼンテーションであれば、多少の言語力と、事前の準備さえあれば、粗方乗り切れることを知れたのは大きかった。

ホワイトボードと、大き目のキャンパスノートを多用するようになったのもこの頃からだった。同行していた海外経験豊富なスタッフですら、海外のスタッフとコミュニケーションを計る際に使っているのだから、語学が不自由な自分が使わない理由は一切無くて、どんどん真似させてもらった。

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ビジュアル的に説明し、知っている単語を書き添えるだけで、コミュニケーションは一気に深められる。口頭で一生懸命に文章を組み立てるよりも、圧倒的に説得力を持たせられるので有効だった。

日常業務(主にメール)に使う言語を優先して覚える

言語の習得も、大学で履修するのが目的じゃないので、仕事上のパフォーマンスに直結する単語をひたすら覚えていった。だから、日常生活で飛び交う、何気ない挨拶とかの方は、みんな早口だし、よっぽど難しくて、いまだに上達していない(苦笑)。

完全に読み込んだのは、すごい「英単語手帳」―仕事ができる人の英語常識755 (知的生きかた文庫)くらいで、あとは、同僚から来るメールの中に登場する知らない単語を、メモして覚える方式にした。途中から、Facebook上に、自分しかいない「英語」Groupを作成し、そこに単語と意味を書き込む方式にすることで、スマホでアクセスできるようにしていった。

説明は単文(短文)にする。難しい単語を無理に多用しない

同行者の中で、海外のスタッフとのコミュニケーションが上手い人がいた。彼の特徴を真似しようと思って、よく観察していると分かったことがあった。

  • 決して発音がネイティブなみにきれい(流暢)ではない
  • 利用する単語のバリエーションは少ない。ずば抜けて難しい単語を多用しない
  • 文章は短くする。関係代名詞的なものは多用しない

現地のスタッフと同じように流暢に言語を扱うことと、業務を遂行することは全く別物だったことに気がつけたおかげで、肩の力が抜けて、楽になった。

そして、ちょうど、その頃、ハーバード大学に留学したGabaの創業者の青野さんの本と出会えた。自分が思っていたことと結構重なることが多くて、納得した。

欧米人を論理的に説得するためのハーバード式ロジカル英語

欧米人を論理的に説得するためのハーバード式ロジカル英語

 

話しかけられる前に、自分から話しかける

最初は、話すのがとっても苦手だった。話しかけられると、相手が何を言っているのかの理解から始めないといけないので、そこが憂鬱で、いつも緊張していた。分かっていないのに分かってるふりをするのはもっと辛かった。

そこで、自分から話しかける方式にした。そうすることで、事前に話したいフィールドを自分で定められるから、頭の中で準備ができるようになった。たまに、脇にそれてしまうこともあって焦るが、それでも今までよりも緊張せず、圧倒的に楽に話せるようになった。

専門知識と経験は、ビザ取得をアシストしてくれた

それに、専門知識と経験のおかげで、私はビザの取得ができたのも大きかった。
日本で働いている限り、ビザのことはあまり考えることは無いと思う。けれども、ビザを取得できたおかげで、家族を日本から呼び寄せることもできた。家を借りることも出来たし、自動車免許も取得できた。こうして現地で生活が始まった。

ちなみに、米国ビザの取得のため、米国大使館に行って審査を受けたのは今となってはいい思い出だ。個室でゆったりしたソファにでも腰掛けながら、大使館員と会話しつつ、審査を受けるのかと勝手に思い込んでいたが、実際には、まるで、選挙の投票所とか、自動車の免許センターみたいなカウンターが並ぶところで、ガラス越しに立ちっぱなしで、審査を受けることになるとは知らなかった。

○大使館の面接の勝手なイメージ

○実際の面接の流れ

語学があればもっとイニシアチブを取れたはず

とはいえ、専門知識に加えて、語学があればもっとイニシアチブを発揮できたと今でも思う。そして、もっと早く成果に辿りつけたはずだと思う。日本のオフィスだったら、すぐにできることが、たかだが言語のせいで制約されてしまうのは、もったいない。

海外での勤務を期待して、自分からチャンスを掴むこともあるだろうし、私のようにチャンスが勝手に放り込まれることもある。いずれにしても、語学は、準備しておいて損は無いからやっておいたほうがいいよと、10代の頃の自分に会ったら言ってあげたい。